不安定化学種が示す反応性の理解と制御-有機合成反応の新たな設計指針を提案-

不安定化学種が示す反応性の理解と制御
-有機合成反応の新たな設計指針を提案-

 国立大学法人bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院生物システム応用科学府食料エネルギーシステム科学専攻の岡本一央 元大学院生(2021年度博士課程修了、現 横浜国立大学 日本学術振興会特別研究員PD)、農学府農学専攻の森住春香 大学院生、農学研究院の北野克和 教授、千葉一裕 学長、国立大学法人横浜国立大学大学院工学研究院の信田尚毅 助教らのグループは、これまで理論的な予測が困難であった不安定化学種(芳香族ラジカルカチオン)の反応性を電気化学的解析により予測?制御する新たな手法を開発しました。本研究成果によって、エネルギー効率の極めて高い有機合成反応の設計が可能になると期待されます。

本研究成果は、ドイツの科学雑誌Angewandte Chemie International Edition(IF = 15.336)にて先行オンライン公開されています(5月24日付)。
論文タイトル:Oxidation Potential Gap (ΔE ox): The Hidden Parameter in Redox Chemistry
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202206064

現状
 電気?光エネルギーにより駆動される酸化?還元反応(レドックス反応)は、温和な条件下でユニークな反応中間体を生成可能であることから、有機合成化学分野において有用な分子変換手法となっています。特に、酸化的に生成するラジカルカチオン種は求電子的な性質を有するため、種々の求核剤との反応により合成難度の高い炭素-炭素結合ですら温和な条件下で形成することが可能です。しかし、レドックス反応の成否は基質の構造に大きく依存します。例えば電子豊富な基質と電子不足な基質どうしの酸化的な芳香族クロスカップリング反応は困難を極め、分子内反応では特にその傾向が顕著になります。この「電子的なギャップ」に起因する反応効率の低下は現象としては経験的に知られているものの、理論的な解析はほとんど報告されていませんでした。

研究体制
 本研究はJST CREST(JPMJCR19R2)、科学研究費助成事業(19K23625、20K15241、20H03072、19H00930、19K22272)、特別研究員奨励費(20J11925、22J00431)による支援のもと、bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@および横浜国立大学で実施されました。

研究成果
 レドックス反応では極性転換(Umpolung)が起こるため、通常の有機合成反応で化合物の反応性を定量するために用いられるハメット則が適用できません。本研究では、ラジカルカチオン中間体の分子内炭素-炭素結合形成に関与する分子軌道であるSOMO-HOMO間のエネルギーギャップが分子内クロスカップリング反応の効率に影響を与えているという作業仮説のもと、これを酸化電位ギャップ(ΔE ox)として数値化する手法を提案し、当該仮説の妥当性を実験と計算の両面から解析しました。その結果、ラジカルカチオン中間体のSOMO-HOMOギャップは反応遷移状態に至るまでの活性化エネルギー(ΔE)に反映されており、そのエネルギー差は反応点の部分構造間のΔE oxとして見積もることが可能であることが明らかとなりました。さらに、着脱可能な電子供与性基?電子求引性基(Electron adjuster)によって基質のΔE oxを緻密に制御することで、通常のレドックス反応では利用が困難な基質であっても所望の分子内クロスカップリング反応を進行させることに成功しました。これらの知見を踏まえて、天然物や医薬品の部分構造に見出される複素環モチーフであるフェナンスリドン骨格の効率的合成を達成しました。

今後の展開
 分子内レドックス反応は分子軌道法に基づく解釈が困難であるため、これまで明確な議論が行われてきませんでした。今回提案した酸化電位ギャップはサイクリックボルタンメトリーにより簡便に計測が可能であることから、レドックス反応を設計する上で扱いやすい指標になることが期待されます。

図1:酸化電位ギャップに基づくSOMO-HOMOギャップの数値化。
図2:Electron adjusterによるΔEoxの精密制御

用語解説
注1)芳香族ラジカルカチオン種
芳香族化合物の1電子酸化によって生じる化学種。求電子的な性質を有するため種々の求核剤と反応する。
注2)極性転換
酸化/還元によって化合物の反応性(求電子性/求核性)を逆転すること。電子豊富な芳香環は求核性を示すが、1電子酸化による極性転換によって求電子性を示すラジカルカチオンとなる。

◆研究に関する問い合わせ◆
bet36体育在线_bet36体育投注-官网网站@大学院農学研究院
応用生命化学部門 教授
 北野 克和(きたの よしかず)
 TEL/FAX:042-367-5700
  E-mail:kitayo(ここに@を入れてください)cc.jskrtf.com

横浜国立大学大学院工学研究院
機能の創生部門 助教
 信田 尚毅(しだ なおき)
 TEL/FAX:045-339-3945
 E-mail:shida-naoki-gz(ここに@を入れてください)ynu.ac.jp

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